* お話 *
>>> 「食べる」
「あ。カテリーナ。ボク、シスターケイトの煎れた青汁はもう・・・勘弁ですから〜ダージリン頼んでください」 ずうずうしくもあっさりといい、談笑するアントニオを一瞥し、カテリーナはその美しい長い指をいつものように こめかみにあてて「はぁ〜」とため息をつく。そして、アレクへお茶を渡すと、もう一度、部屋を出た。 カテリーナは自ら、その手で赤い薔薇の絵の描かれたティーカップにお茶を注ぐ。 「おかわりはご自分でいれて」そういって無表情に手渡した。 「あ。今日は、青汁じゃない。よかったぁ〜。あれ、人間の飲むものじゃないよね〜」 当たり前だ。あれはケイトの皮肉なのだ・・・・・そういいたかったが、言葉を飲み込む。 アレクの隣にかけると自分もゆっくりとお茶を飲んだ。 どこからか仕入れてきたのか、今日の茶葉は、少し苦めだ。ゆっくりと胃へ伝わった。 目の前のアールグレイの茶葉が細かく入っている丸い形をしたクッキーを手に取る。 「あ、姉上、や、やいてきました。ほ、本に書いてあったし・・・・・」 恥ずかしそうにつぶやくアレクをほほえましく思いつつ手に取る。 「そーいえば、カテリーナって家事全般だめなんだよねえ〜」 「あ、姉上は、たまには、僕にりんごをむいてくれますよ・・・・た、たべるところが少なかったです・・・」 「えええっ。食べるところがあったんですねえ〜てっきりないと思いましたヨ〜」 そのそばかすだらけの泣きそうな顔を赤らめながらも、アントニオにほほえんだ。 妙に納得している顔のアントニオ。 「・・・・・あなたたち!!」と叫びそうになるカテリーナ。 二人のやり取りと「家事」という言葉にくちもとをぴくぴくとさせながらも、心の中から暖かい気持ちが あふれてくることに、気づかずにはいられなかった。 内気で自閉傾向があり、吃音。誰もがみても弱く、教皇になる力量なぞ持ち合わせていないこの弟。 その地位を押し付けた自分。 「カテリーナ〜お茶、こぼれそうだよ」 カップが傾いていたのに気づかなかったのだ。 目の前の僧衣を着ていないただの一個人「アントニオ」さまざまな才能と、 それに伴った賛美の称号を持ち、容姿端麗。いうなれば、弟とは対極の位置にある。 まったくもって、計り知れない。 まだ二人は、りんごについて話し込んでいた。 * next * |