* お話 *
>>> 「食べる」
「聖下、紅玉というりんごがあります。」 「こ、こうぎょく、ですか??」 アントニオは、アレクを見つめ、一人の友人として、話す。 吃音を、まったくきにせず、返事を辛抱強くまつ。 ありあまる知識を惜しみもなく、そして自慢するわけでもなく、さりげない口調。 「こぶりで、酸味が強く・・・ジャムや、シナモンと一緒に煮付けると美味しいですよ。 そうですね、そのまま食べるには、好みがわかれますね・・・・・・・・ 色は、そのカテリーナの法衣のような、真紅です」 アントニオは、さりげなく早口につぶやく。 「ボクはそのままかじるのも、パイにはいってたりするのも、どっちも好きなんだけど・・・・」 皮むき、得意だけど・・・・・・女の子にむいてもらうほうがいいかなぁ・・・・ カテリーナを見ながら、にっこりと笑った。 「こ、紅玉ですね、今度、取り寄せてみましょう。ぱ、パイでも、焼きます。」 アレクはうれしそうに、「ごいっしょしましょう」 「うれしいなぁ〜あ。ボク、お茶でも探そう。シスターケイトにいっておこっと」 二人のやりとりをみつつ、 「アレク、そろそろ、あなたは、本来の職務へお戻りなさい、そろそろ時間でしょう」 かれこれ、約一時間はすぎてしまった。 「は、はい」 アレクは立ち上がる。 「聖下、口元」 アントニオは自分の右の口元を指差していう 「パンくずがついてますよ」 「え?え」 あわてて、アレクは左の口元をぬぐおうとした。 「逆です、逆」アントニオは笑った。 「アレク」 カテリーナは、その長い手でアレクの口元のぱんくずをとった。 左右間違えたことを恥ずかしそうに、頬を赤らめ、すこしうつむくと、 「あ、姉上、ありがとうございます」と小さな声でいった。 「あなたは、すぐ左右間違えるから」と姉が弟を心配する顔をしながらも、微笑んだ。 アレクは顔をあげると、まっすぐに、カテリーナ、そしてアレクを見つめ、 「姉上、また、今度。ボルジア卿、今度はパイを」 とどもらずに言うと、部屋をでた。 アレクが帰り、しばらくして、アントニオはお茶をほしがった。 カテリーナが自ら準備して、注ぐ。 その間にアントニオは、とても丁寧にベーグルに、生ハムとクリームチーズを塗る。 そして、カテリーナに手渡す。 「美味しいよ」 そしてなんとはなしに、いう 「カテリーナ、すこしやせた??」 「え、ええ。このところ、すこし、雑務が多かったから」 「ボクとしては、あまりやせてほしくないんだけどねえ・・・」 そうなのだ、このところ、実は咳に、ごくまれに、血液が混じるようになっていた・・・・・ まだ、トレスはもちろんのこと、ロレッタも知らない。 法衣で隠れているとはいえ、すこし体重が落ちた。 髪で隠れているので、気づかれはしないと思っていたのだ。 この男はどこまでみているのだろうか・・・・・。 その軽薄なまなざし、まゆげ。茶色の髪。 まじまじと見つめ返してしまった。 私を通して実は、遥か、遥か遠い未来のことなのだろうか。 ゆっくりとベーグルを噛み砕き、飲み込む。 「ねえ、カテリーナ、どんな食べ物が好き?酒は何でも飲めるでしょ?」 アントニオはナプキンで手をぬぐい、カップに注がれた二杯目のお茶をゆっくりと飲んだ。 「ええ?なぜ?会議なら、食事抜きでもよくてよ」 「やだなぁ。個人的に誘ってるんだけど」 アントニオは、お茶を飲み干してから、 「検査の結果が出たら行こうよ。美味しい店・・・・・っていっても カテリーナのことだし、美味しいものはたくさんたべてるだろうからなぁ」 腕をくみつつ、本気で迷っている。 そして彼は、王冠のマークのついているアンティークの腕時計を眺めた。 カテリーナの返事も待たずに、アントニオはそろそろ、いかなくちゃといい、席を立つ。 「時間は夕方6時。検査の結果が出てから3日後ね。迎えにくるよ」 と、勝手にいう。 無言のカテリーナに対してアントニオは、長い指でおもむろに彼女の右頬にふれると 「聖下と同じ場所・・・・クリームついてます」と頬をよせ、舌でぬぐった 「え??」 アントニオはにやりと笑い、しっかりと言い放つ。 「護衛はなしだよ」 つとめて平静をよそおいつつ、 「そうね、ワインはフランク王国産のものがいいわ。白が好きよ・・・ それから、デザートは、りんごのものね。」 かみそり色の瞳は本物の笑みを浮かべた。 |