* お話 *
>>> 「食べる」
「いらっしゃい。アレク」 鉄の女。ミラノの女狐。散々な言われ方をされているこの真紅の麗人は、自分の家族に 慈母のような微笑を見せて迎え入れた。アレクも「聖下」ではなく、 弟の顔で執務室の奥にあるちょっとしたプライベートスペースへ入室した。 「本来の仕事をしてほしいのだけど・・・・」 といいつつ、その訪問を喜んだ。 明日から、カテリーナは二泊三日で検査入院となってしまったのだ。 病気がちな身体。このところ、少し体調を崩していた。まだまだやることはあるのだ そのためにも、そして、なによりもトレス、ケイト、教授の説得でカテリーナは、検査入院を決意した。 明日からの入院のため、シスターロレッタとトレスはスケジュールの調整にまわっていた。 久しぶりに二人だけですごすような時間だ。席をすすめられアレクはソファにちんまりと座る。 ゆうに3人は掛けられる、年代ものの革張りのソファは、カテリーナのお気に入りだ。 革は何度か張り替えられたようだが、カテリーナがここに運び入れてからは張り替えてはいない。 身体になじみ、革の色はすっかり、飴色になっている。 そして、細かい刺繍が施された、小さなクッションが二つある。 カーヤはそのクッションを抱きしめたり、パンくずをちらかしたりする。 アベルはクッションを枕に居眠りしてしまったりする。 ケイトは、お茶をいれ、その隣で教授は、パイプをくゆらす。 ・・・・・・トレスは座らない。めったに・・・・・ 家族のためのソファ。そう思って、この奥のプライベートスペースにおいているのだ。 --------------------------------------------------------------------------------- 「お茶をいれてくれるよう、お願いするわ」 カテリーナはそういうと、部屋を出ていった。アレクはきょろきょろとあたりを見回し、手にしていた小さな紙袋をゴソゴソと開けながら、姉を待つ 「ハニ〜、カテリーナいる??」 軽薄で甘ったるい声が聞こえ、びっくりし、アレクは身を縮めた。 扉を開けて入ってきたのは、枢機卿の僧衣とは違い、ロストテクノロジーの産物、 ナイロン制の水色のジャージを羽織り前のジッパーは開いている。 その下に首周りがだらしなくなっているオレンジ色のTシャツが見えた。胸には、小さく、ブランドのマークがある。 インディゴ染めのジーンズは、右の太もも、膝がすこしやぶれて白い糸が見える。 アンティークだろうか。 そして、なぜかトレスに贈った物とおそろいのスニーカーをはいている。 手には、大きな紙袋。 ・・・・・・・この剣の館にはまったく似つかわしくない服装の男・・・アントニオだった。 「あ。聖下・・・・・ごきげんよう」 とびっくりしつつ、慇懃に挨拶をする。急に貴公子の顔となる。 「ボ・・ボルジア卿・・・お、おはようございます 」 アレクは少しうつむいて、挨拶を交わした。 |