□ ミニスカート □
隣の部屋から出てきたトレスに、カテリーナを含めたすべての人間たちが、
目を向ける。
黒い新品の革のライダースジャケットには、袖口に小さくファーが付いており、特徴的だ。
その下には、カシミアが含まれているであろう、柔らかそうな紫色したタートルのセーターが見える。
スカートは、例のものだ。そして、人工の皮膚には、編みタイツが履かれ
膝までの長いブーツは、ヒールが3cmと、あまり高くはないが、ジャケットと
そろいの真っ黒である。
すべて、カテリーナのサイズとは言いがたい。むしろ、トレスのサイズでは?
と思うほど、身体にフィットしている。
なぜか違和感が全くない。無表情に、扉を開けて突っ立っているトレスに対して、
部屋のすべての人間たちは、何も言わず、にこりと笑い、ごく普通に受け入れる。
そして、カテリーナだけが青ざめて、剃刀色の瞳は、怒りで溢れている。
「だれか、ウィリアム博士を呼んで頂戴」
その声は鉄の女と呼ばれたころのあの、恐ろしくさめた声と同じだ。
「トレスの修理をお願いして頂戴」
カテリーナの美しいその指先と手入れされた爪。そこには、
ピンクの熊の毛糸のパンツがしっかりと握られて、ふるふると震えている。
そして、そのパンツを持ったまま、ベッドから出て、フラフラするからだで
トレスに駆け寄り、トレスが着替えていた部屋へと、二人で消えてしまった。
「トレスは壊れたのであろうか?」というイオンの声がこだまする。
「壊れてないと思いますよ」なぜか、答えるマタイ。
しかし、その声はむなしく部屋の壁へと吸収される。
そして、久方ぶりにカテリーナたるゆえんを見たアベルは、真っ青な顔で
ペテロの手をとり、部屋を出る。
「鉄の女・・・・・・・・」とパウラがポツリという。
残されたその部屋の人間たちも、すごすごと部屋を出る。
「ハニィィ、怒ってるのぉぉ」お気楽なアントニオの耳をひっぱりながら
アストが彼を引きずり、部屋の扉を閉めた。
鉛のような重さだ。
* next *
2005.8