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□ 尼僧服 □
あるいは、やくそくともいう
カテリーナはこのスフォルッツア城に久方ぶりに帰ってきた。
次はいつかえれるのかわからない己の身のために、出迎え、支度を始めた侍女たちへと、 ねぎらいの言葉をかける
ひどく寒々としてきたこの晩秋の夕暮れせまる時間。
自室、といっても有名なホテルのスウィートルームを 思わせるような広い部屋で、ぽつんと、窓辺にたつ。
と、いっても、車椅子をゆっくり窓辺へと進めただけなのだが。
窓のそとから、枯れた草木が揺れている。風が出てきて、 今日は冷え込みそうだ。
明日の朝、霜で真っ白くなることだろう。
彼女の忠実なる猟犬、トレス・イクスは何も言わず、ただ、部屋の片隅に ずっと立っている。
「もって半年くらいでしょうか」
幼きころからの侍医のことば・・・・・・・・・・
あの宣告を受けたときから、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
一人の男へ対する女ゆえの醜い感情と、絶望を引きずりながらも、
その男と交わした約束を護るために生きている。この身は、まだ、呼吸をしている。
その喜びをこころから受け入れながら,やっぱり、絶望のことを思う。 その迷路から、出られることができるのだろうか。
窓から、手入れされ、来春へ向けて整えられた庭の土を見つめた。 茶色になって枯れて風で飛ばされてゆく枯葉の屑。
こなごなになり踏み潰され埃になって消えてゆく。 自分のことなのだろうか。
自分のことなのだろう。
気がつくと光が燈された。
トレスは部屋の明かりをつけたのだった。
シャンデリアの豪華な輝きが乱反射している。
「気温が低下している。窓辺にいることは推奨できない」
トレスは窓辺の分厚い遮光カーテンを閉めた。
手馴れた彼の動きを見つめて、カテリーナは、静かに微笑み、窓辺から離れる。
いつも、この機械的な動きが私の醜い思考を遮り、現実の場所へと引き戻す。
自分のすべきことを思い出し、隣の部屋へと続く扉の前へと 移動し、その扉に手をかざした。
小さな、車椅子では入れないような子供の身長くらいの 高さのまるで隠れ家への入り口のようなドアである。
そして、取っ手だけが、新しい金属のかたまりで、その扉の木目と古さとは うってかわってなんだか、別もののようだ。
そのドアには、センサがついており、 カテリーナの手のひらでしか開かない仕組みになっているのだ。
音もなく、扉がひらく。
それから、教理聖省への通話と頼んでおいた、時刻になることを 部屋の大きな振り子の時計を見て確認した。
そろそろ、会えるはずだ。
Axが解体され、教皇庁預りとなってしまい、未だ、処遇がどうなるのか わからない彼女=戦艦”アイアンメイデンII。”
義兄には、彼女の処遇に対して、慎重に、かつ、悪いようにはしないと 約束させた。
義兄のことだ、彼女の艦長としての腕前、そして、さまざまな 機能を兼ね備えたあの戦艦を悪いようにはしまい。
むしろ、あの技術は彼にとって、咽喉から手が出るほど、ほしいものだ。
そのやりとりを思い出しながら、立体映像が結ばれるのをしばし待つ
*next*