* お話 *
多分、不眠。ジェーンとメアリが寄宿舎にいるような設定と思ってください。 学生、10代後半くらいの設定・・・・・・・かと。不健康ネタです。 >>> 不眠・惰眠
午前3時半。初夏。 霧雨があがり、すこし、空気が湿気を帯びている。どうせ、眠れやしないのだ。 「あけてよ」 ベランダがら音がする。クリーム色のカーテンをひらき、窓の鍵を開ける。 ジェーンが、窓枠をまたいで入ってきた。 寮の扉が施錠される。ジェーンの部屋は二階だ。 メアリの部屋はちょうど一階にある。 しょっちゅうこんなことで利用されていた。 「ただいま」 無邪気な声をあげるジェーンのために、ベッドの上の本をはじによせ、 座らせようとして、ため息が出る。 膝丈の紺色のティアードスカートに、オフホワイトのパニエが、見え隠れする。 スカートのすそは少しほつれて糸が出ていたり、かぎ裂きができている。 パニエは、擦り傷の血液の染みやら草木の樹液らしき緑の染みやら、 少しの泥で染みがついている。 よく見ると、麻素材の丸襟のパフスリーブのブラウスにも同じような染み。 スカートと同じ色の紺のリボンは、解けかかっている。 赤い薔薇の刺繍の入った小さなバッグをいつものように、乱雑に、メアリのベッドへと投げる。 「なんて格好だ・・・・・・・・」 メアリはつぶやく。 マスカラが半分落ち、目元が黒くなっている。泥と擦り傷の頬と膝。 湿った服。 帰ってくるときに、霧雨が降ったのよ あたしたち、変態に追いかけられたり、大変だった メアリは黙って聞きながら、棚から裁縫箱を出す。 ジェーンは見合わせたようにベッドに座ると、ブラウスを脱ぎ、 「コルセットがきつい」 と少し緩めながら、スカートのほつれを確認していた。 渡された裁縫箱をあけて、糸と針を持つ。 「あんたって、相変わらず、まめで器用ね。服なんていくつでも、あるのに」 半分は皮肉だ。 その服も、所詮、融資しているアパレル関係の会社のものであり、お気に入りのデザイナーの物だろう。 「この服、気に入ってるし」 スカートをはいたままの状態でほつれを手際よく縫い始める。 メアリは、窓を閉めながら、ジェーンのしぐさを見つめる。 ジェーンは目線を感じつつも下を向いたまま、作業を続けながら、問う。 「眠れなかったの?」 「うん」 「薬飲んだ??」 糸を玉結びにして、とめる。ほつれを直し終えた。 後はクリーニングに出すだけだ。スカートは元通りの彼女によく似合う形を描くだろう。 メアリは自分が着ているコットンのネグリジェのボタンを見つめた。 「あんた、半分、持ち逃げしたでしょ」 「だって、しゃれにならない量持ってるんだもの。」 ジェーンは、立ち上がってメアリを見つめた。 「そのしゃれにならない量の一部を拝借するのは、あんたでしょ」 拝借した薬は、アルコールと同時摂取して、 夜のお相手やら、ご友人やらと戯れて・・・・・・・・・ といいかけてメアリは口を閉じる。 「だって・・・・処方ないと、手に入らないものもあるんだもの」 ジェーンは、少し目を潤ませる。 違うよ。メアリ、その量、全部一気に飲まないでよ。 と言いかけて、上目遣いにメアリを見た。 いつもと、同じ、静かな目線。 その言葉がいかにおろかな妄想だったか、一瞬たりとて、考えた自分を 自分自身を恥じた。頬が少し朱らむ。 そうだ、メアリは、あたしの好きなメアリは、そんな安い女じゃない。 この女は、ちょっとのことじゃ、くたばるはずがない。 「髪、伸びたね」 ジェーンはメアリの髪にふれる。 長い爪はマニキュアが剥がれ、泥がついている。 メアリは、ジェーンの指を振り払うかのようにして、床に落ちたブラウスを 拾い上げて、手渡す。 ジェーンは、ブラウスを羽織ると、足元のリボンを拾った 「ねえ、ジェーン 私、その量、すべて飲んでそれが致死量だとしても、絶対、死なない気がする」 リボンを結ぶジェーンの指先を見ながら、彼女が言いたかったことへの答えを言う。 「不死身ってこと??」 「かもね」 「見て、夜が明けるよ」 どちらともなく、窓の外を見つめた。 青い、夏の夜明け。空気が白くなってゆく。 そして、朝を迎える儀式の言葉を言い合う。 「おはよう」 fin * back * |