* 駄文*
>>> 注意
アイザックと教授、そして、12歳のケイトあたりが出てくる青春小説(ほんとかよ) ついでに、キャサリン・ラングとゼベット・ガリバリディもいるような話 だめなヒトな読まないでください・・・・・・・・・・・・・・ >>> 手袋 2
その3 「入りますよ」 力強くノックをし、声をかけると 扉を開け、書棚を横切り、書棚と同じスチール製の机の前で頭を抱えている男のそばへ、 アイザックは後ろから音もなく入り込む。 「ウィリアム」 部屋の主の名を呼ぶ。 文献と本、それから、わけのわからない試作品に囲まれ、雑然としたその部屋に、 アイザックはやっとの思いでゴミ箱を探し当てると、 ばちん と大きな音をたてて、そのぴったりとしたゴムの手袋を脱ぎ捨てた。 その音でやっと気がついたのか、ウィリアムは、振り向く。 「きていたんですね」 口元を緩ませ、暖かい瞳で彼はアイザックの訪問を迎え入れた。 このところ、論文の査読を頼まれたり、己自身の論文の仕上げと、デスクワークばかりで、 なかなか、この部屋から出られずにいたのだ。 朱色に添削された、たくさんの紙が机にばら撒かれている。。 さすがのポーカーフェイスでも、疲労の色は隠しきれない。 知性が宿って光る、その瞳は少し充血気味、顔色はひどく土気色していた。 そして、紳士らしからぬ、乱れた髪と、少し汚れた、白衣。 手の指は、彼には珍しく万年筆のインクがしみついている。 手には、赤い色のペン。たのまれた論文の手直しをしているところだった。 机の上には、自分で入れた紅茶と、論文、参考文献の本の山、それから、コンピュータの明り。 椅子を勧めたくとも、椅子にも、本が積み重ねられている。 アイザックは、窓際へ行くと、少し窓をあけ、論文が風にとばないよう、気を配りながら、 シガリロに火をつけたついでに、この部屋のよどんだ空気の入れ替えをする。 そして、その香を味わいつつ、親友に煙がいかぬよう窓へと、吐き出す。 「ランチサービスで結構うまいグラスワインを出す店をみつけたんです」 ウィリアムは、突然の彼の発言にびっくりしつつも、彼の黒い髪を見つめた。 その視線に気がつくと、ああ、と思い髪を縛っていたハンカチをとく。 ばさり 音を立てて、真っ白い白衣に真っ黒い長い豊かな髪がゆれて落ちた。 少し首をふって、片手で少し、自分の髪をすく。 シガリロの香が髪を通してウィリアムの鼻腔に入り込む。 アイザックは、先ほどまで縛っていたハンカチをたたみ、白衣のポケットへとしまう。 「ケイト嬢は、手先が器用ですよね」 しみじみいう。 「ああ、もう、そういう時間だったんだ」 ウィリアムはそうつぶやくと、相変わらず、隙のないさりげなさに感心する。 「私のこの書き上げた論文に文句をいう不届きものと、 そして、この私に査読を申し込み、とんでもない間違いを訂正するために、とても疲労困憊してたのだよ」 友の相変わらずの己惚れに、苦笑いしつつも、 頼まれたことはきちんと、それなりに、結果を返す、訂正を正す、 いつも紳士であるこの男は、きっと期限をきちんと守り、書類を提出するのだろう。 そのためには、時間軸の概念を忘れてしまう。 ウィリアムは、そういう男だ。 アイザックは、そんな友をさりげなく気遣い、時には連れ出し、時には一人にさせたり ときには、大切な女性と二人だけにさせたりと、気配りを忘れない。 ウィリアムももちろん、そんな友のさりげない心使いを常に、うれしく思っている。 そして、もちろん、今日のその誘いを断る理由は全くない。 ありがたく申し入れる。 この調子だと、今日が何日なのか、覚えていないのでは、と思うくらいの表情を読み取ったアイザックは、 「ケイト嬢は、今日は学校でしたね」 大切にしている少女のスケジュールを伝える。 そういえば、今日は、お茶を自分で煎れていた。 そして、付け合せのクッキーやら、ちょっとしたビスコッティやら、スコーンがないことに気がつく。 アイザックは白衣を脱ぐと、ウィリアムに有無を言わせず、 早くしないと、店がこみだしますよ、といわんばかりの目線を送る。 その視線を読み取ると、彼は持っていたペンをそっと引き出しにしまい、自身も白衣を脱ぐと椅子の上にかける。 「さあ、ランチへいきましょう。あなたの好きなものがあるといいのですが」 そういうか、いわないうちに、アイザックはすでに、ウィリアムをまるでエスコートするかのように、 さりげなく背中を押すと、扉を開け、廊下へといざなう。 「アイザック・バトラー」 その名を口にだし、振り向く。細いふちのない眼鏡の奥の瞳からは、何かを見透かすかのような それでいて、紳士なまなざしが、ウィリアムに向けられる。 その眼鏡越しの瞳の光は、何を宿しているのか。友を疑う気持ちは微塵もないが、いつも、不思議に思う。 「なんですか?フルネームで」 と苦笑する。 「案内してくれますか?君のお奨めは、一度たりともはずしたことはないからね」 廊下には、少しだけ、初夏を思わせるような空気がひろがっていることに気がついた。 初夏の空気とともにシガリロの残り香が、ウィリアムの部屋に残された。 |