カテリーナとトレスがテロリストでなぜか一緒に住んでる設定。

庭先 2


さっきまで紫外線をたっぷり含んだ空だったはずなのに、
雲が流れ出し、ツバメが低く飛び出した。
この国の天候にはとことんついてはゆけない。

トレスは、寝室で左側に身体を向けて眠りについている
カテリーナを一瞥すると、ドアを閉め、
夕べのことをゆっくりと反芻した

 「薔薇の苗へ、肥料をあたえねばなりません」
といい、麗人は、メモを渡した。

テーブルにおいてあったその本人同様美しい肉筆でさらりと
書かれた紙を手にし、部屋を出た。

黒い服ではなく、ヴィンテージジーンズと、ストライプのTシャツ。
ジーンズのポケットに、小銭をつめこみ、メモ紙をシャツの胸ポケットに
押し込む。

音も立てずに出てゆく。

おそらく、己が主が目を覚ますのは、9時半から10時ごろだろう。


指定されたカフェにつくと、魔術師ことイザークは、新聞をよみながら
紅茶とハッシュドポテト、大盛りのシーザーサラダをテーブルに乗せていた。
茶葉の渋さ控えめの爽やかな紅茶イングリッシュブレックファーストが
ポットで置かれている。
ケイトスコットを思い出すような、小さな白い薔薇の絵のカップとソーサー。そろいの皿に
緑色のさまざまな野菜と粉チーズの薄い黄色。


トレスは彼の前にたち、小さく頭を下げた。
 「おはようございます、トレス・イクス君」
新聞をきちんとたたみ、イザークは、眼鏡の奥からどんよりとし輝きのない瞳を
機械の硝子球の瞳に向けた

  「今日は全くのプライベートでして。我が君からの連絡はありません」

トレスは立ったまま、無表情に事実上の上司の言葉を待つ

黒い長い髪と三つ揃えのスーツ姿のやせぎすの男。フレームレスの四角い眼鏡に
食事中も手袋をはずさない。
そして、オレンジブラウンの短い髪にまっすぐなまなざし。
カジュアルな服装、しかし、手入れが施され、それは高価なものだと思われる。
ここの街の有名大学に通う学生を想像する少し無表情な青年。
そんなちょっと不思議な組み合わせの二人を
店員たちが、何事もなかったように、でも、盗み見しているようだ。
そのほんのわずかな視線に気がついたイザークは席をすすめた。

   「ああ、トレス・イクス君。おかけになったらどうです?」
あなたは、私以上に執事のような人ですからね
と小さくつぶやく

   「用件は?」
トレスの平坦な声。いつもよりもさらに、事務的になる。
   「これをカテリーナ様に」
手渡されたのは、白い陶器に小さな手のひらサイズのサボテン
丸くてとげとげしくて、緑色だ
   「世話をしてあげるとちゃんと花が咲きます」

イザークの手袋をはめた大きな手から差し出された手袋と同じ色をした陶器
そして、とげがいっぱりある丸いサボテン。
トレスには、それがどんな意味をなすのか、わからなかったが、
ミラノ公に関する重要な任務であり、この植物が危険性を伴うかもしれないが
受け取ることにした。
意味などわからないのだ。
機械化歩兵のイザークに比べて一回り小さな手の平にしっかりと渡される
  
「私としたことが・・・・・この紙袋に入れて持ち帰れば荷物にはなりません」

そういうと、長い手をあげ、ウエイトレスを呼ぶと支払いを済ませた。
 「出ましょう。あなたは、食事なぞとらない人ですしね」
人という言葉をわざと使い、イザークは次の行動へ出た。

からん
と音がし、店の扉がしまる。
後を追うトレス
しかし、イザークの姿はもうすでに霧雨のなかに消えていった

つづく