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のんびりしましょう


結局、このロンディウムでも、私は、こいつらの尻拭いなのか?
とこっそりと、パウラは、つぶやきつつ、書類に目を通す。
イノシシ局長(元というのか)は所詮、体力勝負だ、
マタイにいたっては、ゲルマニクスであの美形青年の元、腰ぎんちゃく?
しているレオンガルシアにご執心、 いかにあの国をつぶすか、細い目の割りには、考えてることなぞ、結構単純なものだ。
あの、ゲリラマニアめ。

ウォルナット色した、品のいい家具に囲まれ、局長の代わりに、羽のついたペンを 走らせ、サインをする。
今、局長は、留守だ。
おそらく、イオン閣下に、アンデレを従えて、警備という名の 散歩かもしれない。帰ってきたら、この書類をすべて、押し付けなければ。

 立体映像が結ばれ、シスターケイトが、出てきた。
  「どうしたのでしょうか?ケイト」 さっきまでの邪念を振り払い、極めて、事務的な顔をした。
  「パウラさん、お気持ち察しますわ。私も、尻拭いばかりしていましたもの」
ケイトはにっこりと笑い、温かいお茶を差し出す。
  「どうぞ。ロンディウムでは、こんなとき、ゆっくりとお茶を飲みます」
添えられたスコーンと、クロテッドクリーム。
パウラは、机の上の書類をはじのほうへとどかすと、
ありがたく、そのティーセットを受け取った。
そして、静かに、窓の外を眺めた。
「芝生が青いですね」
どちらともなく、窓を見ながら、言葉が流れる。


 居眠り 


右足を少し引きずるような足音が床に響く。

しかし、この部屋で仕事をしている女性、パウラはその音に気がつきもせず、
大きなソファに横になっていた。

このところ、書類に目を通す作業ばかりだった。
ノックの音も小さく、そっと扉が開けられ、入室する。

足音が彼女の腰掛けているソファの前で止まる。

眠っている彼女を見下ろしくくと、咽をならす。
マタイは、その大きくて骨ばった手を顎にあてて、いつものように
物思いにふけっているような、あるいは、哲学者のような表情で、部屋を見渡す。
彼女以外いない。
本来なら、この執務室には、ペテロも、いるはずだが、今日はどうやら、不在のようだ。

客用の大きな深いソファの上で無防備に寝そべっていて、
そのまま、眠ってしまったパウラ。
以前のシスター服とは違って、まるで、ペテロ(もちろん、マタイにとっても)の秘書のようだ。
濃紺のスーツの下は、真っ白い麻の開襟のブラウス

ソファの前でマタイは、ああ・・・とまるで
物でもみるかのように、眠っている、その美しく鍛えられた、足を一瞥した。

「副局長・・・・と呼べばいいのか。パウラと呼べばいいのか。」
なんだかんだいっても、パウラ、あなたは局長のことが好きですからねえ・・・・・・・・・・
私もそうなんですけどね。
でもねえ、局長を見つめている、あなたを見るのが、かなり好きなんですよ。

そして、ひざまずくと、その骨ばった手がパウラの頬に触れる。
なにかを拭こうとする、指の動き。

    今日は、血糊はついていませんね。
    戦闘で返り血を浴びたあなたも美しいと思いましたが、
    こうして、静かに、穏やかに、眠っているあなたも美しいと思いますよ。
    私たちは所詮、異端審問という名の下、殺戮を繰り返した集団であり、血で塗られた同志ですからねえ。
    せいぜい、これからも、仲良くつきまとうと思います。

私は、あなたと、ともにあります。

 そして、薄ら笑いではなく、いとおしい者を見つめる笑顔が広がると、
そっと、パウラの髪へと、その薄い唇が近づき、口付ける。
血なまぐさいにおいではなく、やさしい彼女の好んでつけている整髪料の香り

これ以上、その手に他人の血液がつかぬよう。返り血をあびぬよう
これ以上、汚れぬように。もう十分すから。
これ以上、過去の惨殺に、悩まぬよう。

そうだ、これからも、汚れるのは、私でいい。

その細い瞳に、暗い影が現れて、消えた。
2005.8up